ベニテングタケ Amanita muscaria

ベニテングタケ Amanita muscaria

夏~秋、シラカバなどの林に発生。古くからハエ捕りに用いられており、東北などではアカハエトリ、英名ではFly agaricと呼ばれる。イボテン酸(ibotenic acid; 1)がこの有効成分として知られており、当時東北大学薬学部教授であった竹本常松によって単離された。また、他の毒成分として、ムッシモール(muscimol; 2)、ムスカゾン(muscazone; 3)などが同定されている。
イボテン酸やハエトリシメジより単離されたトリコロミン酸(tricholomic acid; 4)などの化合物は、イソオキサゾール環やイソオキサゾリン環の窒素原子の酸性度が高いため、生体内でグルタミン酸と似た挙動を示す。そのため、NMDA型グルタミン酸受容体のアゴニストとして作用する。同様に、イボテン酸の脱炭酸産物であるムッシモールは、抑制性GABA受容体のアゴニストとして作用する。

イソオキサゾール化合物やイソオキサゾリン化合物は、COX-2阻害剤のバルデコキシブ(valdecoxib; 5)や有機リン系殺虫剤のイソキサチオン(isoxathion; 6)など、医薬品や農薬の骨格として重要な化合物群である。しかし、イボテン酸やトリコロミン酸、ムッシモールなどの生合成経路については明らかとなっていない。

isoxazoleイソオキサゾリン環やイソオキサゾール環を有する天然物として、Streptomyces garyphalusが産生するD-シクロセリン(cycloserine; 7)と、Streptomyces sviceusが産生するアシビシン(acivicin; 8)の生合成経路が研究されている [1-3]。
D-シクロセリンは、O-アセチル-L-セリン(9)がヒドロキシウレア(10)と縮合したO-ウレイド-L-セリン(11)が前駆体で、シクロセリン合成酵素によって合成される(Scheme 1; A)。
また、Streptomyces sviceusが産生するアシビシンについては、トレーサー実験が行われており、N-ヒドロキシオルニチン(12)が前駆体であることが示唆されているが、生合成酵素などについては同定されていない(Scheme 1; B)。
これらの知見を綜合すると、イソオキサゾール化合物やイソオキサゾリン化合物の生合成においては、窒素-酸素結合を含む化合物が代謝中間体として重要なのかもしれない(Scheme 2)。

Scheme 1

Scheme 1

 

ベニテングタケは、毒成分だけでなく、色素についても広く研究されている。

例えば、本菌からベタレイン(betalain)と呼ばれる化合物群が単離されている。これらの化合物群は、本菌の特徴である鮮やかな色の原因物質と考えられている。ベタレインはL-DOPA(13)から生合成されるベタラミン酸(betalamic acid; 14)のアルデヒド基と、様々なアミノ酸のアミノ基が縮合し、イミンを形成することにより合成される(Scheme 3; a)。
また、本菌の黄色色素成分としてムスカフラビン(muscaflavin; 15)が知られている。ムスカフラビンは、ベタラミン酸と同様、L-DOPAからL-DOPAジオキシゲナーゼによる開環反応を経て生合成される(Scheme 3; b)。
本菌のL-DOPAジオキシゲナーゼはすでに異種発現系による機能解析が行なわれている。その結果によると、本酵素は、基質特異性が低く、上記2つの開環反応をどちらも触媒するらしい。興味深いことに、本菌のL-DOPAジオキシゲナーゼと相同性の高い酵素は見出されていないようである [4,5]。

Scheme 3

Scheme 3

ベニテングタケを含め数種のテングタケ属菌は、ヒ素や重金属を濃縮することが知られているため、注意が必要である。例えば、ヒ素を含む化合物としてアルセノコリン(arsenocholine; 16)がベニテングタケから単離されている。アルセノコリンはコリンの窒素原子が同族原子のヒ素に置き換わった化合物である。猛毒として知られるヒ素は、多くの生物において微量必須元素として知られており、アルセノコリンやアルセノベタイン(arsenobetaine; 17)などの形態で様々な生物の生体内に存在している(Scheme 4)。

Scheme 4

Scheme 4

また、本菌からはバナジウムを含む青色色素も単離されている。この化合物はアマバジン(amavadin; 18)と呼ばれており、バナジウムに(S,S)-2,2’-(ヒドロキシイミノ)ジプロピオン酸(19)が配位した化合物である。アマバジンの生理機能などは明らかとなっていないが、本化合物は硫黄化合物の酸化還元反応を触媒する性質があると報告されている。電気化学的実験などから、アマバジンはメルカプト酢酸やシステイン、グルタチオンなどのチオールをジスルフィドに変換した一方で、プロパンチオールやアミノエタンチオールなどの基質とは反応しないようである。また、この酸化還元反応は、ミカエリス・メンテン型機構で進行するという興味深い報告がある [6]。

amavadin

 

参考文献

[1]  Uda et al. (2013) Antimicrob. Agents Chemother.57 (6), 2603–2612
[2]  S.J. Gould, S. Ju (1989) J. Am. Chem. Soc., 111 (6), 2329-2331
[3]  S.J. Gould, S. Ju (1992) J. Am. Chem. Soc.114 (26), 10166-10172
[4]  P.A. Girod, J.P. Zryd (1991) Phytochemistry, 30 (1), 169-174
[5]  L.A. Mueller et al. (1997) Phytochemistry, 44 (4), 567-569
[6]  M. Fátima C. Guedes da Silva et al. (1996) J. Am. Chem. Soc.118 (32), 7568–7573

 

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